THEME

パンゲア・テクトニクス 地殻変動するアート ものがたりの分岐点

21世紀以降、それまで1万年以上続いてきた「完新世」は1950年頃に終わりを迎え、人類の活動そのものが地球上の地質学的変化に影響をもたらす新たな地質時代、「人新世」に入ったという議論がなされています。それは、私たちが住むこの惑星に対し、文化、社会活動が直接リンクしているということであり、急速に変動するアートやそこから生まれる「ものがたり」もまた、地球そのものの活動と深く結びついているのではないでしょうか。

約2億5千万年前の地球には、「パンゲア」という超大陸があり、それらが長い年月をかけ、地殻変動を経て現在の6大陸に分離していったという、「プレート・テクトニクス」と呼ばれる理論により説明される地質学的仮説があります。そして、現在の6大陸もまた遠い未来にまたひとつに統合すると予測されています。この地質学的作用に比例するようにして、グローバルという言葉が謳われる現代において、人類の活動もまた互いに衝突しながら、共鳴しつつ結合すると同時に、それぞれの固有性の差異もまた浮き彫りになっています。本展は「パンゲア・テクトニクス」という造語を比喩的に用いることによって、統合と分裂という異なるレベルの力学を同時に兼ね備えている地球上の複雑なダイナミズムを、アートを介しながら見つめていくことを目指しています。

本展が形作ろうとする「パンゲア」の中では、例えば玄武岩という自然環境と直接的に結びつく物質性を扱う彫刻や、蛍光灯という極めて都市的な素材を用いて現代的な聖者信仰の感覚を表すインスタレーションが展示されています。こうした作品は、自然環境と現代の人工環境が衝突し、ずれ込み、変形していくいまの地球環境を反映しています。
同時に、精霊が樹木にメタモルフォシス(変身)していくような神話的世界観を体現するインスタレーションや、伝統的な技法を尊重しつつ現代的な「新しい民話」を創造しようとする絵画など、宗教文化、民間信仰、私的体験といった人類の記憶に通底する様々な「ものがたり」が、このパンゲアの諸地域に分岐していきます。

本展はまさに世界中のプレートが流動しながら、超大陸パンゲアが形成されるように、各国から選ばれたアーティストの作品の断層が動き、それぞれの独自性と共通点が衝突することで、新たなアートの地平が生み出される瞬間を体験可能にしています。地球史と人類史が織りなすマクロの観点から、「いま」という時代を反映する各アーティストのミクロの表現を見つめ直すことで、現代の地球という惑星と私たちの日々の活動の複雑な絡み合いが、別の様相を持って立ち現れてくることでしょう。

キュレーター

黒沢聖覇
黒沢聖覇
東京藝術大学 大学院国際芸術創造研究科
アートプロデュース専攻 修士課程
1991年生まれ。東京在住。United World College Mahindra College(インド、プネ)を卒業。早稲田大学文化構想学部卒業。 東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科に1期生として入学。第7回モスクワビエンナーレ「Clouds⇆Forests」(トレチャコフ美術館新館、モスクワ)、アシスタントキュレーター。「Seize the Uncertain Day ‒ ふたしかなその日」(東京藝術大学大学美術館陳列館、東京)、チーフキュレーター。2018年度平山郁夫文化芸術賞受賞。
Exhibition Designer: Vincent Ruijters
Curatorial Team: Anna Kato, Atsuhiro Miyake